ガレージの冷たいコンクリートの上で、使い古した工具を眺めながら私は思う。 これまで費やしてきた膨大な時間と、積み上げてきた失敗。そのすべてはこのAPtrikes250に出会うための、長く険しい伏線だったのではないか。
ネットの海を漂えば「便利さ」や「効率」ばかりが語られる時代。だが、私のようなサンデーメカニックが求めているのは、そんな生ぬるいものではない。
YouTubeの沼、そして日田で起きた運命のシンクロニシティ
始まりは、YouTubeという名の底なし沼だった。 テツ氏や梅小路氏の動画を貪り、三輪トライクの深淵に触れた。画面越しに伝わる、あの独特な鼓動感。気づけばメーカーHPの「在庫僅少」という文字に背中を蹴飛ばされ、私は大分県日田市のショップへと車を走らせていた。
実車を前にした時、一度は踏みとどまり帰路についた。しかし、数日後。何気なく開いたYouTubeに、私がつい数日前に立っていた「あのショップ」の動画が流れてきた。 これをシンクロニシティ(運命の一致)と呼ばずして何と呼ぶ。私はその瞬間に「腹を決めた」。
地獄のVQエンジン、そして傷だらけのアルミホイール
私のメカニックとしての履歴書は、決して輝かしい成功ばかりではない。むしろ、トラウマと絶望の連続だ。
- 横置きVQ・V6エンジンの呪い: あの狭窄なスペースでのプラグ交換。指先の感覚を失いながら、「二度とDIYではやらない」と神に誓った地獄の作業。
- タイヤとの死闘: 自分の手でタイヤを組み換えようとして、ビードがどうしても落ちなかった夜。絶望で泣きそうになりながら、愛車のアルミホイールを傷だらけにしたあの屈辱。
だが、今なら言える。 これまで注ぎ込んできた高価な添加剤やケミカル、そして壊してしまった無数のパーツたち。そのすべての痛みは、このAPtrikes250という相棒を、私の手で完成させるための「糧」だったのだ。
なぜ125ccではなく、あえて「250cc」を選んだのか
四輪歴25年、二輪はほぼ未経験。 維持費や手軽さを考えれば、125ccを選ぶのが賢い選択かもしれない。しかし、私が選んだのは250ccのマニュアル車だ。
実車を見た瞬間、私は確信した。 **「このマシンは、すべてが未完成だ」**と。 その事実に、震えるほどの歓喜を覚えた。完成された既製品をただ消費するのではない。自分の手で、自分だけの250を組み上げる。その「ガチ」なプロセスこそが、サンデーメカニックの本懐なのだ。
決意は「冬のドイツ戦車仕様」、そしてバイナリコードの誓い
私の頭の中には、すでに完成図が描かれている。 目指すは、無骨で質実剛健な「冬のドイツ戦車仕様」。 ボディには、私のアイデンティティを刻み込む。自身の生年月日を変換した「バイナリコード(2進数)」のエンブレム。それは、世界に一台だけのマシンであることの証明だ。
誰かに褒められるためのカスタムじゃない。自分が自分であるために、この未完成の塊をねじ伏せ、手なずける。
波乱の幕開け――自走100kmトライアルへの序章
納車の日。ショップを後にし、日田から大分までの約100kmを自走で帰る。 だが、走り始めて数分。私の五感は、ある決定的な「違和感」を捉えていた。
「……やはり、一筋縄ではいかないか」
苦笑いしながら、私はハンドルを握り直した。この違和感こそが、これから始まるDIY地獄、もとい「楽園」への招待状だったのだ。
🔍 今回のカスタム・キーワード
APtrikes250 サンデーメカニック 250ccトライク ミリタリーカスタム DIYメンテナンス プリマライド
次回予告: 「自走100km、試練の洗礼。納車直後に感じた『違和感』の正体とは?」 サンデーメカニックの戦いは、ここからが本番だ。