ショップで対面した、私の新しい相棒、APtrikes250。 試乗から1ヶ月。ほぼ初めてに近い二輪MT車の操作に、多少の不安はありました。案の定、練習では何度かエンストもしましたが、それ以上に私の指先が「ある違和感」を捉えていました。試乗車と比べ、ミートポイントがかなり奥にある。この僅かな個体差こそが、量産品ではない「機械」と向き合う醍醐味だと、その時はまだ余裕を感じていたのです。
【沈黙】パニックの駐車場。消えたインジケーターと動かない車体
最初の目的地は、操作の習熟と「初心者マーク」購入を兼ねた、近隣のカー用品店。 無事に到着したかに思えましたが、駐車場に停めようとした瞬間、事件は起きました。
バックギアに入れるためにニュートラル(N)を探るが、どうしても入らない。 シフトインジケーターは、1速と2速の間で彷徨った挙げ句、ついに表示そのものが消えてしまいました。表示が「0」にならない限り、そこはニュートラルではありません。 物珍しい三輪車に集まる視線。焦燥感。一旦キーをオフにして車体を押そうとしましたが、びくともしません。「せーの」で力を込めても、まるで地面に根を張ったかのように動かないのです。
焦りは頂点に達しました。状況を確認しようとキーをオンにしても、今度はセルが回らない。 「……おてあげだ」 カー用品店のスタッフの方に心配されながら、私は営業時間内のショップへ電話をかけました。
「キルスイッチ、どうなってますか?」 その問いにハンドル右下を見ると、無情にもスイッチは「×印」を指していました。さらに、フロントブレーキもホールド状態になったまま。 キルスイッチを戻すと、何事もなかったかのようにセルが回り、インジケーターに「0」が灯る。 サンデーメカニックとしての自負が少しだけ削られた、苦い、しかし確かな「洗礼」でした。
【装備】FRPボディに刻む、左端走行の覚悟
APtrikes250の外装はFRP製です。当然、用意していたマグネット式の初心者マークは受け付けてくれません。 私は店内でシール式の初心者マークを購入しました。道路の左端を走り抜く覚悟を込め、後続車からも対向車からも視認しやすい「右側の前後」へ貼り付けます。これで、公道を走るための最低限の武装は整いました。
【速度】バイパスの洗礼。5速全開、回転数不明の咆哮
日田を離れ、大分市を目指してバイパスへと合流します。 周囲の車の速度が、三輪の低い視点からは異常なほど速く感じられます。
回転計(タコメーター)のないAPtrikes250。 5速でスロットルを大きく開け、風を切る音とエンジンの唸りだけを頼りに、マシンの限界を探ります。 「今、何回転だ?」 未知の振動が車体を通じて伝わってきます。中途半端に速度が出る分、受ける風も冷たく、体温を容赦なく奪っていきました。
【闇夜】失われた「指先の感覚」。見えないボタンと冷気の暴力
クラッチの感覚を直接掴むために、あえて素手のまま走っていましたが、ついに限界が訪れました。夕方から陰り始めた最後の光が落ちた瞬間、山岳地帯特有の刺すような冷気が襲いかかってきたのです。
たまらず休憩場所を見つけ、グローブとバラクラバを装着しました。 しかし、暖かさと引き換えに、操作の繊細さは失われました。厚い布越しでは、先ほどまであれほど鋭敏に感じ取れていたクラッチのミートポイントも、暗闇に沈んだウインカーボタンの位置さえも分かりません。 手元が暗く、自分の指がどのボタンに触れているのか確信が持てないまま、ただ闇の中へマシンを走らせる。
頼れるのは、自分自身の意志と、この未完成の相棒の鼓動だけ。 日田を後にし、私は漆黒の小国・久住ルート、100kmの山岳トライアルへと本格的に足を踏み入れました。
(次回:第3回「久住の霧と、不意に訪れた違和感の正体」へ続く)
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